初めまして、ZANA Corporation代表の宮川です。

このスタッフブログでは、弊社の所属する自動車産業に関して、我々の知識・経験とともに、様々な先行研究をまとめたものを、わかりやすく発信して行きたいと思います。

日本の自動車部品取引の研究においては、京都大学の浅沼教授の研究が有名です。 自動車産業はすり合わせ型開発の王者であると言われており、その開発の複雑さや難易度の高さにより、自動車メーカーとサプライヤーとの間における「関係特殊的技能」浅沼(1990)の獲得が大変重要であるとされてきました。この概念に基づくサプライヤーへの開発のアウトソーシング、いわゆる「承認図」浅沼(1990)の作成を元にした、サプライヤーと自動車メーカー間のすり合わせ開発の経験が、暗黙知*の習得に至り、その技能を取得したサプライヤーに優先的に受注するという、いわゆる護送船団方式的による新規参入障壁を形成してきたと考えられます。 そのため、このような暗黙知の取得を得意とする日系サプライヤーに対し、外資系サプライヤーが日系自動車メーカーにアプローチを掛ける際、またはビジネス獲得後の開発段階において、上手くマネージメント出来ないという状況が良く見受けられます。 一方日系サプライヤーは、この「関係特殊的技能」を保持する事によるアドバンテージに執着し、文化的差異の大きな海外自動車メーカーとのビジネスに消極的であった会社が多く見受けられます。結果、弊社はグローバル企業です」と主張されている日系サプライヤーの中には、海外市場においても、日系自動車メーカーとしか取引していない会社が多く、真の意味でのグローバル化は果たせていない現状があります。このように海外企業と他流試合をする事無く、現状に安住することとにより、携帯電話業界で言われてきたような「ガラパゴス化」が進み、日本の自動車業界全体の競争力が低下してしまうのではないでしょうか?

自動車業界では静かに、でも着々と破壊的イノベーション**が進みつつあります。その波にのまれず、乗りこなすだけでなく逆にその波を起こす存在になれる日系自動車部品メーカー・自動車メーカーが何社あるでしょうか? 答えはのちの歴史に委ねるしかありませんが、現状に安住するだけでなく常に先を読み、積極的に「すり合わせ」や「作り込み」による「深化」だけでなく「進化」を求めて行く事が重要です。

 


*暗黙知  マニュアル等に明文化されていないが、経験則や企業文化として取得・受け継がれている知識・能力。 対義語は「形式知」である。

**破壊的イノベーション  イノベーションモデルの1つで、確立された技術やビジネスモデルによって形成された既存市場の秩序を乱し、業界構造を劇的に変化させてしまうイノベーションのこと。具体例としては、アナログレコードに対するCDなどがあげられる。

 

参考文献

浅沼 萬里   日本におけるメーカーとサプライヤーとの関係–「関係特殊的技能」の概念の抽出と定式化  京都大学『經濟論叢』 (1990), 145(1-2): 1-45