今回は欧州自動車産業に関して、中央大学の池田正孝教授の論文の概略と、2013年に発表された千葉商科大学の長谷川洋三博士の論文を一部引用して書き込みしたいと思います。

1997年の論文執筆時において池田教授は「1993年に起こった厳しい市場交代を契機として、欧州の自動車メーカーは部品製作の大転換をはかりつつある」と説明し、その2本柱はモジュールサプライヤーを核とした一次サプライヤーの選別化の動きであり、もう一つの柱は自動車メーカーを頂点とした「日本型ピラミッド下請構造」の構築であるとした。なかでもドイツにおいてこのような傾向が実現しつつある。 彼らはフランスやイギリス自動車業界が進めてきた合理化策に倣って、部品調達政策の転換に向かって革新的なプログラムを導入し、徹底した部品コストの削減に取り組み、その成果も上がっている。

池田(1997)によると、ドイツの新しい部品調達政策の特徴は⑴部品内製事業の見直しとサプライヤーとの関係強化、⑵グローバル・ソーシング、⑶コンセプト・コンペティション、⑷ターゲットプライスによるコスト削減、⑸モジュール生産方式の導入の5点であると説明しています。

池田(1997)によると「欧州での部品外注比率は1994年当時において60%前後に分布しており、これは米国平均より高く日本の平均より低い。特に欧州においてはM-BenzとイタリアのFiatが高い内製比率を維持していました。M-Benzは高級車メーカーであるため、独自の風格ある車を製造する為、それに相応する部品を製造する必要があり、内製比率が高くならざるを得ない状況でである」と説明しましたが、現在ではコスト削減の為内製事業の合理化と見直しを行っています。 Fiatも内部にコンポーネント事業部を持っていましたが、1990年代に部品事業の再編成に取り組みました。しかしながら100%子会社であったMagneti MareliとTeksidは内部競争力に関わるため売却されませんでした。

従来の欧米的なBidding(競争入札)取引は敵対的な関係を本質としていましたが、日本のような長期継続的信頼関係を前提としていない為、コスト削減の実現が厳しかった。こうしたことから、VDA(ドイツ自動車工業会)は自動車メーカーと部品メーカーとの「協力のためのガイドライン」の作成から開始し、フランス自動車部品業界もこれに倣い同様の活動をはじめ、さらには欧州全体にまたがる「協力のためのガイドライン」作成にまで発展することになったといわれています。

一方、長谷川(2013)によると

「VWはOpel の購買部長だったLopez を副社長としてスカウト、1993年にLopez 副社長の下で中長期目標として30%のコストダウンを強制的にサプライヤーに求めるLopez方式を導入し、欧州の自動車業界に一大旋風をもたらした。Lopezは、日本のコスト低減活動の成果から見て、欧州でもサプライヤーに圧力を加えればコスト低減は可能であると判断して、実行した。しかしサプライヤーに対し十分な工程改善などの指導を行わずに遮二無二にコスト圧力をかけたから、サプライヤーの不満も多かった。この中で部品コスト削減の新しい手段として浮上したのがモジュール生産である。」

と説明し、VWでは日本型の、即ちサプライヤーとの協業による年次原価低減は上手くいかず、その次のコスト低減手法として「モジュール戦略」導入するに至ったと説明しています。

ヨーロッパ、とくにVWグループで先行しているモジュール戦略は、今後の自動車産業の構造変革をもたらす一大潮流であると言えます。


参考文献

池田 正孝「欧州自動車メーカーの部品調達政策の大転換―ドイツ自動車産業を中心として」 『中央大学経済研究所年報 第28号』 (1997)

長谷川 洋三「自動車企業の国際競争力分析―モジュール化の進行と企業間関係の変化を中心に」 千葉商科大学 博士学位論文(2013)