前回はMITのマイケル・クスマノ教授の研究のレビューを行いましたが、今回はそのポイントのまとめと、その含意に関してご紹介したいと思います。

前回のポイント:

・米国のメーカーが従来の研究の指摘とは異なる特徴を見せている、すなわち日本メーカーのアプローチに近づきつつある。

・日本の自動車メーカーの取引サプライヤー数は少なく、契約期間は長く、価格は低下し、不良率は非常に低く、情報を密に交換している等の特徴がみられる

 

インタビュー調査の結果とその分析

クスマノ〔1990)ではインタビュー調査で、日米の比較に加え、* 日系トランスプラントの慣行とパフォーマンスを日本の親会社並びに米国企業との比較を行いました。 対象企業は4社の自動車メーカーと、23社の部品メーカーのトランスプラントで、彼らが価格、品質の水準を引き上げていくうえで遭遇する4つのタイプの障害が明らかになっています。

 

トランスプラントにおける価格、品質水準向上に対する障害

分野別問題点
トランスプラント自身の問題点 日本のトランスプラントの開発力不足、コスト情報の不足、米国サプライヤーのコスト情報開示拒否、生産規模の小ささと創業の歴史の浅さ
米国操業に伴う問題点 米国サプライヤーの開発力不足

二次サプライヤーの能力不足

製造業インフラの弱さ(金型、ファスナー、鋼材、材料、工具、メッキ等)

米国企業における継続的改善努力、管理手法の欠如

メンテナンス工の不足

品質・価格に対する考え方 日本の自動車メーカーの高い品質水準要求

米国企業における高品質=高価格という考え方

利益・価格に対する考え方 米国サプライヤーの要求マージンの高さ

米国サプライヤーに対する短期的利益圧力、価格引き下げ慣行の欠如

出所 『リーディングス サプライヤーシステム』(1998) p.170より筆者作成

 

含意

トランスプラントに納めているサプライヤーを詳しく見ていくと、トランスプラントのパフォーマンスは管理手法の現地移転により、米国企業が改善した結果というよりは、日本のサプライヤーの米国進出の結果によるのではないかという論点があります。今回のデータから得られた情報として、トランスプラントのサンプルの半分は米国に進出している日系の部品メーカーからの調達であり、米系の部品メーカーからの調達は1/3に過ぎない。ここから見ると日本の生産活動の海外への拡張に為の主たる戦略は、日本の部品メーカーにアメリカに来てもらうことだったといえるでしょう。

このような、取引先の海外進出に促されて、その下請け企業が進出する事を「同伴進出」と呼びます。

上記の考察が1990年時点でのクスマノの見解でしたが、端的に言うと、日本の自動車メーカーの競争力の要因が、このサプライヤーとの部品取引システムに由来している、言い換えれば「日本のサプライヤー・システム最強論」的な考え方が根底にあるように仮定できます。

即ち、すり合わせ型の開発・品質・コスト改善に強みのある日本の自動車産業のサクセスストーリーの証左であると評価できますが、その後20年以上が過ぎ、日本の自動車産業が、当時ほどの圧倒的な優位性を確保できていない状況があります。 具体的には海外メーカーの新技術開発能力、アプリケーション開発能力や品質カイゼン能力の向上、さらに海外メガサプライヤーと比較した場合、日本の部品産業の低収益傾向が見受けられるという点等です。

次回は、欧州の自動車メーカーの部品調達政策に関するレビューをご紹介したいと思います。

 


*日系トランスプラント  日系自動車メーカーが海外展開した生産工場、主に日系自動車メーカーは日本の生産・品質・調達・マネージメン手法をそのまま海外展開しようとした

参考文献  マイケル A. クスマノ、 武石 彰 「自動車産業における部品取引関係の日米比較」『リーディングス サプライヤー・システム』 (1998)、株式会社有斐閣